12月大歌舞伎昼の部感想① お姫様と元傾城と偽傾城に釘づけ
先月の国立劇場よりも先にこちらをアップするとは某様に怒られそうだが、絶対書くから勘弁してくださいませ(私信)。
だって菊之助の八重桐と松緑の光圀めあてに行ったら、思わぬ伏兵がゾロゾロいたんですもの。ええ、観た日が中日以降だったら何枚舞台写真を買い込むことになるやらと思うぐらい…。
さて今月の歌舞伎座は若手中心の座組で、特に菊之助が昼夜共に義太夫ものの大役に挑戦と言う、なかなか見物しがいのある狂言立てになっている。
この一座の「若手」と言われる方々は、私が観始めた頃いくつぐらいだったかと言うと、…声変わり真っ最中だったのが1人(松緑)、声変わり前が2人(海老蔵と菊之助)、イギリスに留学していて戻ってきたのが1人(亀三郎)、そしてバリバリの名子役が1人(松也)。
私が歌舞伎を観始めた頃、御曹司の子役と言えば松也のほかに勘太郎・七之助がいたが、中村屋兄弟は学校優先だったと見えてあまり舞台に出ていなかったように思う。その分子役の大役がほとんど松也に廻っていたのだが、これがまためちゃめちゃ上手かったのですよ。大きくなったらどんな役者になるんだろう…と思いながら観ていたものでした。
そして12月10日、その大きくなった姿を観て衝撃を受けました。
あらすじはこちらでご確認くださいませ
【八重桐廓噺】
幕が開くと御簾が下りた状態の屋台が登場。まあ御簾が下りていると言うことは、大抵この後にお姫様だかお殿様だかが登場すると決まっている。
ところで御簾が上がってお姫様沢瀉姫(おもだかひめ)の姿が見えた瞬間、私椅子からずり落ちそうになりました。
誰このべっぴん(死語)は!
このお姫様、本当にあの松也くんかい?
面白かったのは御簾が上がりきった後、3階A席のオペラグラス装着率が跳ね上がったこと。あれはガン見したくなるわなあ。
…私ですか?腰元達の渡り台詞が終わるまでガン見しましたが、何か?
腰元さんの中に一人、派手派手しい色の振袖を来たおかめちゃんな腰元お歌が。市蔵さんですね。まだ慣れなくて前名の「十蔵」で呼びそうになるが、おかめちゃんなのに可愛らしいのが素敵。
その後に出てくる赤っ面(=敵役)の大田十郎は弟の亀蔵さん。素顔も芸風共にこんなに似てない兄弟も珍しいなあ。
そこに沢瀉姫を慰めんとして出てくる煙草屋源七は團蔵丈。えっ、源七は海老蔵じゃないの?とちょっとビックリしたが、意外と言ってはなんだが二枚目の役がお似合いだった。私の中では悪役か少々ひねた世話物の立役のイメージが強かったものだから、まさか三河屋に色気を感じるとは思わなかった…。
さて第2のオペラグラス装着率急上昇ポイントが到来。
花道から紙子に紫帽子姿の八重桐、菊之助登場。
正に目の保養と言っていい端正さ美しさに、思わず溜息をついちゃいましたよ。大体紙子の衣装自体が私にはツボだし。但し、元傾城と言う色気ははっきり言って薄い。これはまあ、もうちょっと人生経験を積まないと…かな。
この後の、眼目の「しゃべり」は楽しかった。「しゃべり」と言いながら八重桐が実際にしゃべる部分はあまりなくて、むしろ「弁慶上使」のおわさのような糸にのった演技が見物。
しまいに八重桐が「あんまりしゃべって息切れた。お茶ひとつ」と言うところ、本当にしゃべっていたかのような雰囲気が漂っていたのはすごいと思った。
さてこの後は、妹白菊が親の敵を討ったと聞いて源七が申し訳なさに切腹、その魂が八重桐の胎内に宿る…って、『魔界転生』にも似たような設定があったわね。
白菊の萬次郎、久しぶりに拝見してもあの独特の声は健在だった。この人、お姫様より腰元の格好の方が似合いますね。この白菊がまた強いんだ。捕手を蹴散らして沢瀉姫を連れて花道をひっこむ姿、これは女武道の役と言っても過言ではないでしょう。
蹴散らしぶりは神通力を得た八重桐の方がさすがに派手でした。女形の立ち回りは趣向的にも視覚的にも楽しいので好き。
うっぷんを晴らす?かのようにイキイキとしている菊之助を観て、なんだか爽快だった。若い役者の立ち回りは体がよく動くから観ていて気持ちがいい。
【忍夜恋曲者】
これで「しのびよるこいはくせもの」と読みます。歌舞伎の外題はなかなか奥が深い。
筋書きの紀尾井町(松緑)の談話によれば「常盤津の中でも大曲中の大曲」とのこと、しかし私は舞踊はタイミングが悪いと前ノメラーになってしまう性質。お昼食べた後だしなあ…と思っていました。結果。のめるどころか最後まで目を見開いて観ていました。
一番の要因は時蔵さんの如月が実にあでやかで、この日一番の目の保養だったこと。如月は花道七三のスッポンから手燭の演出つきと言う、いかにも「くせもの」って感じの登場をする。ここの出が見えなかったのは素直に悔しかった。時蔵丈の談話には「初めて(25年前)やった時は手も足も出なかった」とあったが、リベンジの今回はあでやかながらも只者ならぬ雰囲気がプンプンしていて実にお見事。
対する光圀は私のご贔屓である松緑。…首周りがどうも太く見えたのは衣装のせいか、それとも本当に太ったのか…。なにしろ体格のわりに顔が小さいからなあ。まあ頭部のことはともかく全体としてはよく似合っていたし、踊りはもう文句なし。やはり静止した時の形の良さは特筆に価する。
まあ見てくれで言うと時蔵丈が数少ない古風な風貌の持ち主だから、紀尾井町に少々違和感を感じないでもなかったが、この2人が並ぶと不思議と年齢差を感じなかったのも良かった。そんなワケで意外にも堪能した一幕でした。
そうそう、終盤出てきた巨大な蝦蟇がプリチーだった。しかもしっかり芝居しているし、1分ほどこの蝦蟇ばっかりガン見していたのはワタクシです…。
後半2つ「芝浜革財布」と「勢獅子」はエントリーを改めます。前半の演目で目の保養をしまくったので長くなってしまいました…。
だって菊之助の八重桐と松緑の光圀めあてに行ったら、思わぬ伏兵がゾロゾロいたんですもの。ええ、観た日が中日以降だったら何枚舞台写真を買い込むことになるやらと思うぐらい…。
さて今月の歌舞伎座は若手中心の座組で、特に菊之助が昼夜共に義太夫ものの大役に挑戦と言う、なかなか見物しがいのある狂言立てになっている。
この一座の「若手」と言われる方々は、私が観始めた頃いくつぐらいだったかと言うと、…声変わり真っ最中だったのが1人(松緑)、声変わり前が2人(海老蔵と菊之助)、イギリスに留学していて戻ってきたのが1人(亀三郎)、そしてバリバリの名子役が1人(松也)。
私が歌舞伎を観始めた頃、御曹司の子役と言えば松也のほかに勘太郎・七之助がいたが、中村屋兄弟は学校優先だったと見えてあまり舞台に出ていなかったように思う。その分子役の大役がほとんど松也に廻っていたのだが、これがまためちゃめちゃ上手かったのですよ。大きくなったらどんな役者になるんだろう…と思いながら観ていたものでした。
そして12月10日、その大きくなった姿を観て衝撃を受けました。
あらすじはこちらでご確認くださいませ
【八重桐廓噺】
幕が開くと御簾が下りた状態の屋台が登場。まあ御簾が下りていると言うことは、大抵この後にお姫様だかお殿様だかが登場すると決まっている。
ところで御簾が上がってお姫様沢瀉姫(おもだかひめ)の姿が見えた瞬間、私椅子からずり落ちそうになりました。
誰このべっぴん(死語)は!
このお姫様、本当にあの松也くんかい?
面白かったのは御簾が上がりきった後、3階A席のオペラグラス装着率が跳ね上がったこと。あれはガン見したくなるわなあ。
…私ですか?腰元達の渡り台詞が終わるまでガン見しましたが、何か?
腰元さんの中に一人、派手派手しい色の振袖を来たおかめちゃんな腰元お歌が。市蔵さんですね。まだ慣れなくて前名の「十蔵」で呼びそうになるが、おかめちゃんなのに可愛らしいのが素敵。
その後に出てくる赤っ面(=敵役)の大田十郎は弟の亀蔵さん。素顔も芸風共にこんなに似てない兄弟も珍しいなあ。
そこに沢瀉姫を慰めんとして出てくる煙草屋源七は團蔵丈。えっ、源七は海老蔵じゃないの?とちょっとビックリしたが、意外と言ってはなんだが二枚目の役がお似合いだった。私の中では悪役か少々ひねた世話物の立役のイメージが強かったものだから、まさか三河屋に色気を感じるとは思わなかった…。
さて第2のオペラグラス装着率急上昇ポイントが到来。
花道から紙子に紫帽子姿の八重桐、菊之助登場。
正に目の保養と言っていい端正さ美しさに、思わず溜息をついちゃいましたよ。大体紙子の衣装自体が私にはツボだし。但し、元傾城と言う色気ははっきり言って薄い。これはまあ、もうちょっと人生経験を積まないと…かな。
この後の、眼目の「しゃべり」は楽しかった。「しゃべり」と言いながら八重桐が実際にしゃべる部分はあまりなくて、むしろ「弁慶上使」のおわさのような糸にのった演技が見物。
しまいに八重桐が「あんまりしゃべって息切れた。お茶ひとつ」と言うところ、本当にしゃべっていたかのような雰囲気が漂っていたのはすごいと思った。
さてこの後は、妹白菊が親の敵を討ったと聞いて源七が申し訳なさに切腹、その魂が八重桐の胎内に宿る…って、『魔界転生』にも似たような設定があったわね。
白菊の萬次郎、久しぶりに拝見してもあの独特の声は健在だった。この人、お姫様より腰元の格好の方が似合いますね。この白菊がまた強いんだ。捕手を蹴散らして沢瀉姫を連れて花道をひっこむ姿、これは女武道の役と言っても過言ではないでしょう。
蹴散らしぶりは神通力を得た八重桐の方がさすがに派手でした。女形の立ち回りは趣向的にも視覚的にも楽しいので好き。
うっぷんを晴らす?かのようにイキイキとしている菊之助を観て、なんだか爽快だった。若い役者の立ち回りは体がよく動くから観ていて気持ちがいい。
【忍夜恋曲者】
これで「しのびよるこいはくせもの」と読みます。歌舞伎の外題はなかなか奥が深い。
筋書きの紀尾井町(松緑)の談話によれば「常盤津の中でも大曲中の大曲」とのこと、しかし私は舞踊はタイミングが悪いと前ノメラーになってしまう性質。お昼食べた後だしなあ…と思っていました。結果。のめるどころか最後まで目を見開いて観ていました。
一番の要因は時蔵さんの如月が実にあでやかで、この日一番の目の保養だったこと。如月は花道七三のスッポンから手燭の演出つきと言う、いかにも「くせもの」って感じの登場をする。ここの出が見えなかったのは素直に悔しかった。時蔵丈の談話には「初めて(25年前)やった時は手も足も出なかった」とあったが、リベンジの今回はあでやかながらも只者ならぬ雰囲気がプンプンしていて実にお見事。
対する光圀は私のご贔屓である松緑。…首周りがどうも太く見えたのは衣装のせいか、それとも本当に太ったのか…。なにしろ体格のわりに顔が小さいからなあ。まあ頭部のことはともかく全体としてはよく似合っていたし、踊りはもう文句なし。やはり静止した時の形の良さは特筆に価する。
まあ見てくれで言うと時蔵丈が数少ない古風な風貌の持ち主だから、紀尾井町に少々違和感を感じないでもなかったが、この2人が並ぶと不思議と年齢差を感じなかったのも良かった。そんなワケで意外にも堪能した一幕でした。
そうそう、終盤出てきた巨大な蝦蟇がプリチーだった。しかもしっかり芝居しているし、1分ほどこの蝦蟇ばっかりガン見していたのはワタクシです…。
後半2つ「芝浜革財布」と「勢獅子」はエントリーを改めます。前半の演目で目の保養をしまくったので長くなってしまいました…。
by piramasa
| 2006-12-16 12:38
| 芝居感想